詩集『灰も落とせない指』
えんじ色のジャケットにえんじ色のスラックス道行く名も知らぬ親父はどうやら直進が好きらしかった そうだ、ここは新宿衝突は避けられない 談笑にかまけあるいは電子の受信・発信に夢中でバラバラを向いて迫る若者のうちの一人を 親父はがっしとつかんだどけ…
秒の一粒一つぶ画鋲のひとつをつぶ貝のようにツブラレタイ瞑られたいそんなん書いたらああ堅苦しく空気も読めないしただいまはツブラレタイ こんなに飽きないのはあなたが初めてだけどぶっちゃけた話手放すことはこんなにも楽だわそんな風に聞こえたよ 雷の…
もうひとりで疲れてしまわないでそう言われて疲れていたんだそう気づいたひとりは想像したなりに楽しいけれど人に見せられるほどのものでもなくひとりの人に出会える人はどこにもいない 話しかけてくれたならそれは壊れるから 罰当たりな夢を見て花束は枯れ…
人が好い、損をするぞと言われ人が悪い、口を開けと聞かされ 僕の平静は勝手にとられた 鋭角か、鈍角か、死角かそれとも錯角かつかみとろうとするものはいつも形がなくてなのに形見みたい哀しいことを記憶してる それでも暗い暗い夜を饒舌に明かして夜だから…
組んでゆく文字が全てジグソーパズルのピースみたいな 人体に似て穏やかでいびつな形で成されるべくして鳴るポロポロと音をこぼす キーボードからトウモロコシみたいに文字を抜き裏にある無数の差込口に指を突っ込んでなめとれば アルファベットの彫られたチ…
一彩構わず無心になって結局、構える身をもって拒むこととは何でしょね育むこととは難でしょね全てに好き、嫌いと付けるのは実に神経質な作業だ祟り目にぶつかりなんだか印象が悪い日いたいけに肩をぶつけて因縁という語に囚われて慣れない無心はかようかと…
友達のことについてはあまり書かない。 いい加減さを確かめ合い長所は伝えられるわけもなく相談したはいいけれど、下手にこじれてしまうだけ。 なにを学ぶべきか語りもせずに、愚痴、愚痴ととばっちりばっちり遊ぶ約束は決まって急で、生活のリズムを侵し合…
流れる旋律の中でビブラートの振幅を使い分ける野獣であれ、小鳥であれイメージしたものに大、小と だけど心病んで、あるいは眠る前にはそんな使い分けも奪われてかけよう、かけないでおこう余韻で震える音叉口を結んで目を瞑る炎天下と毛布のようにかけてい…
一生、呼びかけることなどないと思っていた名前を口にするときの勇気のような 逆らい続ける感情の、いっときの安定は聞いたことのない名前に目もくれず放っておく態度より強く 一分、一秒形になり積みあがる呼びかけの魔術 砂地獄のように、風鈴のように不思…
例えば何かを学ぶとして学んでいる!そんな気持ちで悦に入る実に下らない奴だ どこから飛び出すかわからない膨大な問いの渦にあって保証を欲しがることや手に余るほどの喜びなど信じたくもない 0.25、視力が落ちたその理由が後ろ指に値しても整数の部分は切…
電話をかけたいがどうしてもためらうような人のふり見て、その故事の意味合いは直して丸く収めるよりもその歯がゆさを人のまぶしさを どうせならプラネタリウムで廃れましょう丸めて捨てたラブレター角のある心の貧しさくず、と呼んでも降り止まぬ星の下なら…
どれだけきれいな言葉並べてもきっとたどり着けない円周率も割り切れるそんな理想論でもなく永遠に続くはず盲目の邪推でもなく服はいくらでも服で身体を超えられないこと 赤と黒との戦いなんだ赤と黒との戦いなんだ 黒い髪に触れたら、見た目通り透き通るほ…
かの到来を待ちきれないまま何分咲きかの未熟な桜に寝巻き姿でスイングを贈る背中ににじむ汗の兆しが窓際にさざめく風にさらされ早すぎたかな、少し照れたらもういくつ寝ると数えるにはあまりにも待ちきれぬ訪れもうすぐだ緑を駆け抜ける白球に心は奪われて…
だいじなものをかんがえたじぶんにとってだいじなものこうきしんをうりさばいてあきないなんてうそっぱちだ おじいのたてたいえでたからかにそうぞうをしているやすらかにいだかれておじひにいそうろうしている もしぼくがききあしのみぎあしをぐっとふみこ…
ひれふすように胸元をなぞり即興の経文を白い身体に彫りこむ唇のペンを不器用にくわえてわずかに逆立つ産毛に触れる汗が噴出す癖のある髪が慣れない束をつくり微笑みむように体をよじる したたる滴すくいとるように包みとったふともらす弱ささえ吹きだして洗…
面倒くさいも邪魔くさいもこの際 さいは投げられた転げて叫んで瞬いてとぼけてすとんと落ちちまえ 線路空中に放ってはつなぎとめたがコースタージェットの波にまたがって元の木阿弥に転がった きっと居場所ってやつですか自分の部屋ってやつですね 意外、意…
どうしても、放物線という言葉には弱い。放たれたものよりも放ったという事実が見果てぬ衝突音を呼び起こすからだ。 路地を歩いていく。おなじみどころじゃない。むしろもう幼なじみ、そう言っていいんじゃないだろうか。 電線は飾り忘れた文章のようにから…
灯りのさす道邪魔なものどけてお道化てお届けてスパンコールにピンサロ・バサロ飛魚みたいにすり抜けるまな板の上の川魚どぶの中から謙遜だ! 響く街の背に粋な夢出ました出まかせ風まかせ勢いだけで切なさだけでミラーボールに溶け合って徒と鳴いたが閑古鳥…
必要とされることに疲れ必要なものさがしに疲れた 僕だけはきっとここに そう言い続けていたら孤独が首に絡まった まさか俺がそんな馬鹿なと踏みならされた言葉で揶揄くれる世にあわててワオンと鳴き暮れる 目盛りが0に戻るよう余計な感じは消えて指の包帯…
背え比べでえぐった木端さえ誰だ、と怒って立たせましたね 先生どんぐりを押しなべて灰汁を抜く丸い公平が要りますか さて空砲が鳴ったら競争です 三つに二つの弁当箱だ取り損ねたなら腹でもすかし 強い風髪を上げられたひたいにしわでも寄せて笑おうか 何が…
哀しみっていうのは平然と描くほど伝わるもんだよ感極まって、なんて壁にもたれてこぼすよりも 偉そうに腰掛けて独白するんだ 肘置きの先端をとんとんと叩き痛いということをシンプルに、適当なサイズでちぎって投げつけてやればいい 楽しみっていうのは哀し…
一期の歯形を"もう、会いたくないよ"そんな台詞が貫いた小さいからだにひとまわり小さな実をつけて挑発的な白い花に痛みが残っちゃ桃色だ一会の手ほどきに"もう、戻れないだろう"そんな予想は正解か、ただの夢だったのか一輪に花びらをむしるような時間が過…
辛いけど行かなきゃ 時代はとても恵まれていてのっぺりした雨が続く干上がりのない涼しさと忘れたころの静けさだ 簡単に次へ次へと進んでいく小さく鳴らす足音をかき消す特急と高架の下でぬかるみ引きずる靴元に悲劇の足跡を残しながら 寂しいけど行かなきゃ…
君は口を塞ぐように持っていた煙草をくわえさせる 用件はなあにまるで尋問のようだった 誤解しないで条件なんてつけないの 落胆を誘う言葉が下唇に、重荷を加える もういいかい ううん、もう一回 逸らす目の真意は隠したままで一回だけ、と嘘をつく 言ってく…
己の決まりごとばかり器用におしつけるばかりじゃ銭と札しかもらえないから無意識を言葉にしたい 刺激を受けて、すりこんでないものねだりは消え失せる所詮は点数稼ぎ、それでも見えない世界を描きたい 新しく拾った言葉持っていたように見せかけてすました…
授業をサボって、あえて走り出す彼女の不満はずっとシラフで 何かが迫るから、怖くてあえぎだす寝ることが許された芝生で 卒業を控えて、肩書を失くすことも控えて 相変わらずの不満と変わらない学生気分で嘘をついてでも唄を奏でた わざとくらい偽物の千鳥…
なんの技術も裏打ちもない素人が刻めるものは 正直さ以外のなにものでもない 溜めておけないいっそ思いつくままに 時間の経過を忘れ過ぎただけで得るものは捨てて 残った過去のひとの形をまた書いてしまうんだ ※とくりかえしてはぶける想いなら こんなことを…
恋は、応えて欲しいということで愛は、受け入れられたいということで ということで 一方的な思いは盲目をひきつけ一方的な関係は無償を炊きつける ということで、ということで 定義の要らない仮定を書き付けた ところで、 偉いと言われればトコトコ走り出す…
下手な鉄砲を当てるように子供な大人が唾とばす アンタはまだ遊びきれてないんよ、所詮全部遊んだらいいんよ、 押し付けられた方は口を結び左手を握り惑っていた 分かるよ不穏を嗅ぎ取った僕は 通り過ぎざま、髪に触れたすべてが遊びだというのなら 交わるこ…
星も見えない空を眺めて歩いたら何人かがつられて上を向いたなんだ何もないそんなふうに人はまたとぼとぼと足元を見て歩き出す 月を見ていただけだ、なんてあるはずのない満天を期待した人はがっかりしたろう それでも宛てのない習性に、一瞬でも誰かが頭を…