【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#14 むかしのうた


星も見えない空を眺めて歩いたら
何人かがつられて上を向いた
なんだ何もない
そんなふうに人はまた
とぼとぼと足元を見て歩き出す

月を見ていただけだ、なんて
あるはずのない満天を
期待した人はがっかりしたろう

 

それでも
宛てのない習性に、一瞬でも
誰かが頭を上げたのならば
間違いではなかったとおもう

 

大きくなって
自信たっぷりに無理を語れば
そんな無理よりも
はるかに無意味な歩みを
止めてもらえることもあるだろう
その時疲れた靴紐に気づき
ほつれを蝶になおしたら
ため息さえいい方に流れるだろう

 

分かるということは
分を知ることでもなく

せいぜい秒を砕くしか
計りきれない時間で

 

本物だと知ったかぶりで
満月の砂絵を描くこと
そこで描けるものは
灰色のクレーターにとどまらない

三日月に身を細めても
周り続け、人を虜にさせる
そういうものになりたいのだろう

 

案外、先人の置き土産は
文献や宝物庫の中にはなく
役に立たない月の呼び分けを
口承したこと自体ではないか

さあ哲学者のように今を行こう
もしそこに満天の星があったなら
くつがえして欲しいと願うのだ

奇跡を願うのではなくて
頼りなさの影を埋めるのだ

 

シャンデリアの下で
強く語り合って眠るのだ