【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

詩集『灰も落とせない指』

#13 干渉、誕生、臆病風

ついてこいよ!何の気なく叫んでテニスボールのように規則性の中に風を吹かせ、散って、わめいて 身体ごとぶつかったら網がいつもより硬くてトコロテンみたいにすっと抜けた先に どんな中身が見え隠れしたのか怖がってまた結局丸まってしまった コートを転々…

#12 運命の手

写真入れに淹れたかすかな透明の思い出を曲にしたのは必然だろうか 冷たさに乾く弦を一本少ない指で弾いたら心に混ざるのは皮肉なはなし 考えるより速く紡ぐものを運命の手と名づけるならばその一手こそが「決まりきっている」の冷えきった手をかわす気がし…

#11 薄荷糖の安息

紺色を黒に漬け込んだ刷毛(はけ)でなでたよう冬の朝は薄荷糖の安息で重苦しい題材さえ薄いものの積み重ねだって思えた 幸いにして雪が降らないそんなギリギリの氷点下に小さなつづらをあえて開ける勇気にしたたる水が凍った 飲み込んで吐いたら余計に寒い …

#10 そうじゃないの

傾いた扉には光が漏れていたから斜めに視線を落とし体(てい)のいい言葉を吐いた あまりにも、眩しくてでもなぜか、切なくて 取っ手に指をかけて重いそれを開いた その顔が見たかったから そして言ったまるで無人の部屋に向けて正面を見て話したらきっと伝…

#9 ボタンダウン

後ろポケットにライターが両のポケットに手首までねじ込んで進む足音は嬉しくもない不敵な響き首にまきつけた形式を下手にはずせば締まりそうだ 酔うために仕事して苦楽をぼかす酒をあおって話題づくりの街並みもラブホテルはまだ古臭えよ中世西洋風安っぽい…

#8 華枯れ、再編

どんなに言葉をかけたって私はケガレたというばかり そんな君に「キレイだよ」と感想を告げても かすかにかかった弥生の月のカゲリに開いたものはまた閉じて戸惑わせてしまうだけ 潔白だと潔癖に殊に春な宵のカギリにかけた薄い毛布は明け透けに過ぎたのか …

#7 高望みの死刑囚

単純作業にはもう疲れを感じたの半径4キロの自給自足を楽しみたいわ若さなど捨ててしまったらいいの細胞が生まれ変わるのはおよそ二歳(ふたとせ 壁の染みさえ大事の痕跡に見えるわ絵を描くだけで、まばたきを許さないただその時を待っているなら死刑囚と変…

#6 灰色写真

看板が波打った汚い日暮れだ看破の寒波が先立つ早暮れだ パッて信号が変わってプッとクラクションが笑うのは分厚い参考書の「世界恐慌」とあるページを開けて赤と緑でつぶした末に記号ばかりの知識を増やして問題出し合うガキ共だ 列挙することの消去じゃな…

#5 復刻×これから

一致 任意 算 試 失敗の連続こそ発展の兆候本物っぽくいえばそんなとこだ 位置 荷 産 志 数字嫌いがまた刻んでく抱えるように確かめるように リズムも不安もひっくるめて本物を復、刻んでく 水を打ったような鏡面仕様は爪を落として、歪ませる 情熱のないク…

#4 無名の使徒

風に筆をのせる道のりはとても気ままで平坦ではためく暖簾の感触こそが自由だと思っていたけど かすかに感じられる息苦しさみたいなものがどうやら昇ってるかすかにそう悟らせる それでも希薄になるんなら高い場所には行かないや 首をすくめて、一寸落ちるす…

#3 溜まり場の夜想曲

素肌に麻のシャツを着て残、と開いた胸元を見下ろした 所詮は無理な姿勢ところどころたちまちに水が浮き出る そして車を走らせる 多摩川の風が夜を吹き写真を撮ろうが暗さにやられオートフォーカスが唯一とらえたものは凪とくくりの夜想曲 図面を切り立てた…

#2 向日葵

洗うから、とカバーをはがされてむき出しの枕と布団に就いた裸のベッドで何かに働きかけるように 過去に溺れた そこは不完全な暗闇分かってはいるけど 泳ぎ方を忘れたために泳ぎ方を忘れるために 泳ぎ続ける胎児のように先っぽがけばだった針あたたかなにお…

#1 灰も落とせない指

愛しい人差し指第二関節を砕けたマグカップがスライス 昼下がりの喫茶店底の見えない漬け置き容器で 客の悪意が鰐みたいに牙をむいた 最愛そう最愛 身代わりとなって熱いものを流してくれた それからというもの、包帯生活傷跡が俺の一番になった 帰りの電車…