【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

詩集『灰も落とせない指』

#73 天気雨、残弾は二発

陽が出ているのに、雨が降っているのか雨が降っているのに、陽が出ているのかタマゴが先か鶏が先かの例えに近く遠い安産難産、雄雌と巡らせて破れないならまさに例えとしてのみ機能する足跡だしただ起点と仮り決めた親鳥の存在だっていじめられるほうに問題…

#72 参る

回顧の糸、まきつけた 小指の先にはまた小指 赤い伝えなどはねつけた 張り詰めた肌、銀の雨 外は早よから風抜けた 雪駄で行く道涼しげで 真綿は空に飛んでった 締めつけたのは仮の綾 歪めすぎよ、行き過ぎよ 玄関迎えて声あった 次いで合う目も涼しげで 背、…

#71 えいほぉ

熱気球みたいな世界の端である意味では中心で たった今生まれてきたみたいに泣き叫びながらそれでも誉められたくて泳ぎつづける子供たち クロール、バタフライ激しく流れる波から苦しさ抜くために呼吸を覚えて居直る、また飛来繰り返す波の間は世界で一番に…

#70 それくらい

六年間の男子校生活漫画雑誌を飾る水着の柄と人気のパンの行方気になるのは、それくらい 学校まで続く単調な桜並木に似た明るく、よどみない日々が悩みでポップソングしか知らないくせに薄い眉間にしわを寄せた ふと降り立つようにきっかけさえ忘れさせる成…

#69 JAM

官能などとはおよそ無縁の心は焦りが生む湿り気になお次の温もりを欲した 近頃、背中の掻き傷などもらったわけでもなく爪噛みの、かすかな自傷癖もない では、なぜなんだろう 鋏にはじかれて端っこだけ残してぶらさがる爪に強く愛着を感じるのは 五つの指紋…

#68 影と努力

占い師の一面を持っている友達の友達が俺の手、触りものすごい努力する人そう予想を告げた せっかくの試みだけど噛み含めるには気恥ずかしすぎて 検証する気にもなれなかった 普通は、日あたりと逆の方に努力って奴があるらしくじめっとした感触で一途に内心…

#67 天花粉

爆発しそうなら点火したいし揮発しそうなら放っとこう どろどろしたものは一刻も早く片付けたいね 誘発しそうなら手貸したいし暴発しそうなら放っといて 火薬庫なのか、ただの在庫かとにかくどこかが詰まってる 多分に白粉をしらないピエロ塗りたくった無色…

#66 救い主

右だ右だというからレバーを右に動かしたそしたら行き過ぎだ、っていうから0のそばを行ったり来たり ちょうどいい感じにしろなんでも極端にやるんじゃねえそんなんじゃ就いていけねえぞお前は遅い、などと矢継早 ひどく楯突くこの胸を一撃も打っては射なか…

#65 処女、確実な熱

俺が入ったのが 初めてなら初めてでよし、としといてよそしてもし俺と終わったらまた初めてで いいんだよ いくつもの人を通り過ぎたと考えるよりただひとつの熱を 大切な熱を冷たささえ 嫌じゃないほどの熱い熱を感じてほしいんだ いくつもの自分を作り出さ…

#64 グレーノート

西と東をつなぐいつもの地下道にもの珍しい来訪者鳩は人の足音の間に紛れ込んで飛べないからと拗ねるよう 人前で鳴かないわけは相変わらずのグレー起き上がるように地上へ抜けるゲートをくぐる 駐輪所のチェーンをつたう蟻が黒光りする身体をしつこく謳って…

#63 損得勘定

子供のころ、近所の酒屋の親父がくれた日本の、数字の、単位の、一覧表幼馴染の、そこの息子と競うようにして覚えたわけだけど最後のほうはやけくそで不可思議、無量大数金満を気取って札を数えても笑止の千万は意味がないというようにうすら寒く実体をぼや…

#62 別の何か

狭い公園のベンチにちょこんと足を浮かせて 高いヒールで石を蹴り待ちくたびれて凍えてる 身につけるものを探してばかりで そのくせベッドの中の音のない熱が嫌いで 先に寝る気もない癖に寝癖付の俺を怒ってた わがままな女に憧れてレトロアメリカンな仕草を…

#61 成り立ち

四角四面のレッテルや四面楚歌からも逃げるなら人道のおりを指でなぞって囚われてしまえばいいよあるいは並木を外れて一本やりで立っててもなお揺れていたいと言うのなら困っていればいいんだよ 人は何を、すべきかと問う人は言う、信じてほしいと人という字…

#60 小さなわがまま

交差点で舞きあげられて轢かれては舞う春の証に散々だなと声をかけると 〝せめて、ちりとは呼ばないで〟 ピンクのスカート丸ごとまくられたあげくの肢体赤裸々だなって辱めると 〝実がすべてとは、思わないで〟 久しぶりに両手をポケットに入れた無防備に見…

#59 春眠・冬眠

誰かのために煙草を止めてまた始めた拍子に怪我をした 誰かの悪意、不意でついた傷は皺になる途中 繋ぎめははっきりと残ってる 努力している人はどこかに繋がっていくものそんなの宗教みたいでなんだか怪しいな 駅を歩けば、吸い殻のポイ捨て禁止・キャンペ…

#58 糞書き

たまゆらの華さえいじくりまわす蛇足のような余興のかま首がひとときの余談も許さない感じで鼻腔に花粉を塗りつける 予兆も感じさせない感じで求めてしまえば紛らわしい紛れで伝えても、伝えてもゲーム感覚のタレコミじゃ何人かを経たのちに捨てられる 糞み…

#57 審美眼

香水をも欺瞞を匂わせない水のように流れる惰性の女美しさの中に、馴れ合いときらびやかなピアスが煌く蚊の鳴くようなもったいぶったかすれ声で言うんだろ、言うんだろ?カフェラテ。ほら言った。 蜜を塗ったような瞳チークの行き過ぎもご愛嬌生まれつきの肌…

#56 楽しい一日

これが正解だったなんてたわ言ぬかして期末だからと見返す馬鹿を見下ろすことの真相は楽しい一日を過ごすことだけで目いっぱい 川べりに着いて深い草のかげからあれこそが正解なんてざれ言ほざいて 戯言、そう訳せば細かい枝はひとくくり往生際悪く跳ね返る…

#55 敗者と呼ばれ

痛くないよ、の害のない程度の嘘にハンカチを握り締めてる 深部がいじくられて赤い印が滲んで塩のまざった水聖者の教えで口をゆすぐ傷口に差し入って少し時間が経ってからのあてつけのような飴を褒美かと考えりゃ 苦々しくもあるけど清々しく歩けそう なめき…

#54 ダブルピース

子供のころ近所の公園のそばにいわゆる身体障害者の人がいて童心のままで止まった大きな身体に坊主頭をゆすってどうしてそうできたのか勝手にトラックを動かしたり問題はとても多かった ある日、消えてしまったけど 遺族はうつむきながら取り決めた自分たち…

#53 菊の花

何を頼んだのかも忘れて届いた飲み物をただ飲んで凍った滝を抜けるようにひしゃげる景色が伝った時砕け散ったと知ったんだ 溢れてるのに水はなくてあぶれてるのに独りじゃなくて死海みたいに真っ白で狂気と思って絞り出した足りないそれは勇気だった 遮二無…

#52 微温湯

終電の終点で起こされた足りないか、行き過ぎたのかそんなのどうでもいいんだけどさタクシーの野郎共が目配せくれんのが実に嫌だね寒いね、やんなるね 右から左へ、上から中へへ目移りする風の誘惑が話が飛び飛び、それはさておきヒバリを吸ってはかんと鳴く…

#51 にきび

椅子の上にあぐらをかいたら膝がひっかかってもぐらない諦めて足を伸ばした拍子にぐいと靴下を脱いだ ついでみたいに体操をして首を場違いな背もたれにのせて唇の上のにきびをさわる 「必要よ」義理もない愛想もない小娘にそう言われたら「悪くねえな」と俺…

#50 願いは短絡

一年ぶりだ、ってお前それ毎年じゃねえか 二年ぶりだ、って一年やめただけじゃねえか 久しぶりね、って急に思いついたんじゃねえか まずまず、しばしば願いは短絡 ますます、白白 願いは暴落 言ってくれ、っておまえだって言えるんだろう 待ってくれ、ってど…

#49 素数

「24」好きだと言って憚らない幸運思い込んだ約束の数 確かに多すぎる約数は冷静になれば素朴じゃないね 手前の、23もっと小さな数々々無欲のいびつさに憧れたりもするんだよ 無味無臭の清潔漢にゃ目指すにも遠すぎるけど 素、捨てずに生きて敵が多くもなっ…

#48 ゴシック=ブルース

仲良くなりはじめのメールを見るのが嫌で詰まり過ぎる文字もあえて空けた改行も丸こいゴシックも嫌いになるんだねえ、どうしたらいい? へこんでる、とがってる変形を悟られたくなくて真剣な顔する自分が時計の針を進めるんだメリハリのない字体あえて退屈を…

#47 天使のそそう

注ぐアルコール天使が跳ねまわってる整える業務のスマイル下から添える温かい手絡める舌よりも眩しいの? 天使の羽根は回ってる絶好調よ、目配せをして蓋からもれる優しい手キャラメルより温かいの? 天使の反語は悪魔じゃないあくまでも人、そうそうヒト繁…

#46 Lost and Hound

その口から僕の名前が二度と出ないなどと考えもせずに暮らしていた川べりを歩いて君は草を摘んでた癇癪もちの僕は重い荷と苛立ちを向こう側に乗せてシーソーゲームをしてた 白いカーペットに深夜の映画がちかちかと映って宝石のカットみたいに尖る八重歯の艶…

#45 幸せのナンバー

うたかたも歌い方も忘れるために歩いていこう互い違いはだける諦めの響きも折りたたんで積んでいこう 羹(あつもの)が障ったら耳たぶをつかまえた冷め肌にかさと音がしてトーピンって何ですかどこか真新しい響き利率かなんかですか?もはや聞くにも、開ける…

#44 座右の銘

決めてしまえば、いままでの歩みが嘘になる座右の銘は、なんて質問答えなくていいはずだった ローマも老子も世界征服も興味がない征服より至福私服より起伏明日の服は明日決めるし決まらなかったら出なくていいまぶたを閉じたら起きられる起きなかったら、あ…