【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#21 恵みの雨

 

辛いけど行かなきゃ

 

時代はとても恵まれていて
のっぺりした雨が続く
干上がりのない涼しさと
忘れたころの静けさだ

簡単に
次へ次へと進んでいく
小さく鳴らす足音を
かき消す特急と高架の下で
ぬかるみ引きずる靴元に
悲劇の足跡を残しながら

 

寂しいけど行かなきゃ
高温多湿の夕景へ

草の根の舵をとって
息の根の止まる空へ
雑然とした夏を越えて

 

二合目、三合目の立て札を信じ
上昇こそすべて
空虚な号令で
人に決められた順路を行く

気づいたら
人の背中を追っている

がちゃがちゃと騒ぐ虫けらは
触れなくなったみたいだ

 

 

枯れた花
引きよせるような一枚岩に

ずっと変わらないよね?
調子よく聞けないだろう


恵みの雨
降り重なっていく
たまりになるほど
湖になるほど
首までつかって
果てるように
遡るという文字を
くぐもったガラスに描く
こんな時代じゃ
そう息を吹きかけて
あがらない雨に
見えない虹を見るばかり