【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

物語『道京』 - 本編

【1】散歩道 (小説+詩 全12話)

『道京』 1. 散歩道/2002年12月26日 クリスマスが明けた早朝に電話が鳴って、「渋谷に9時」とだけ言って切れた。なんて不作法なタイミング。間違いなくデートの誘いじゃない。そもそも、こんなことをするのはひとりだけだ。 僕は半ば条件反射で身支度を始め…

【2】Sunday Girl

2. Sunday Girl/2003年1月~12月21日 カレンダーは店頭に並んですぐにいくつか売れたらしい。電話越しに聞かされた文さんからの報告に、僕は喜びながらも、どこかすっきりしないものを感じていた。電話を切った後、カレンダーをケースごとくるくると回しな…

【3】Miracle Night Diving

3. Miracle Night Diving/2003年12月28日 僕は八王子の自宅から立川駅まで、おんぼろのRVRを走らせた。ちょうど前年に生産を終えたばかりの車種だ。後部座席には適当なCDと、一泊分の軽い荷物を少々。荷崩れしないようにコートをかけたら、即興の旅支…

【4】ドキドキ

4. ドキドキ/2003年12月28日~29日 もちろん、文さんに恋人がいることは知っていた。10歳ほど年上で、大手企業で若くして役職を持つ。未来を築くパートナーとしては申し分のない相手だ。 1度だけ顔を見せてもらったことがある。よく片付いた部屋のソファに…

【5】ロックンロールスター

tokyo 5. ロックンロールスター/1996~1997年 YUKIと出会って僕の人生は一変した。完全にスイッチが押されて、どこかへ進みたくて仕方がない。必然的に、自分が置かれている場所を見つめる日々が訪れた。やがてホームページをつくり、自分の好きなものを発…

【6】スウィートセブンティーン

6. スウィートセブンティーン/1997年4月~1998年10月 1997年4月。知り合って半年が経ち、僕は高校2年生に、文さんは3年生に進級した。関係は特に変わらない。恋愛感情のようなものも芽生えなかった。彼女が遠い都心の学校で誰かと付き合ったり、別れたりし…

【7】小さな頃から

7. 小さな頃から/1998年10月~1999年12月 指輪をもらってから、2つの大きな変化があった。ひとつは右手の薬指を強く意識するようになったこと。当たり前すぎて申し訳ないけれど、受験勉強にギターにと常に手先を使っていたから、予想以上に存在感があったの…

【8】ひみつ

8. ひみつ/1999年12月しばらくすると雨が降ってきた。小走りで待ち合わせ場所近くの喫煙所へ急ぎ、濡れた灰皿で吸殻をねじる。「まったく面倒で、体に悪くて、それにお金もかかる。臭いだってある。何のために吸っているんだ」なんてことは微塵も思わない。…

【9】2人のストーリー

9. 2人のストーリー/1999年12月~2000年10月 有名人に会うと新鮮な印象を受ける。背の大きい小さい、性格がきつそうだとか。メディアも馬鹿じゃないから、映像のマジックは確かに存在する。でも、そんな違和感を生む一番の原因は、「そこにいること」自体に…

【10】長い夢

10. 長い夢/2000年10月~2001年3月→2004年2月半年続いた恋人ごっこは、文さんにとって苦しい時間だったはずだ。だって恩人に背を向けて、僕と近づかなくてはいけないのだから。 彼女の精神は不安定になり、見たことのない一面を見せるようになる。夜中に泣…

【11】KYOTO

11. KYOTO/2004年3月「よかったらうちで働いてみないか?」図らずも、亨さんはそんな風に言ってくれた。全く知らない人よりはいい。そんなシンプルな理由だった。出勤はいつからでもいいから、とのこと。「4月からお世話になります」少しおっかないけど、う…

【12】風に吹かれて(終)

12. 風に吹かれて/2004年4月〜 卒業後、僕はしばらく亨さんの店で働き、社会勉強を積んだ。もちろん職人としてではなく、雑務全般という感じだ。形の上では営業となっていたけれど、店には亨さんの評判を聞きつけて引き合いが絶えなかったし、トラブルがあ…

【13】ひとつだけ ※あとがき+α

もし読んでくださった方がいたら、ありがとうございます。懐かしい感情を掘り起こすとあまりに生々しく。ますますこのブログの場所が嫁に内緒になりました(やってるのはなんとなく知ってる)。 日頃、あんまり肩肘張っていないので、この『道京』をつくって…