【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#40 人である僕は

 

人が好い、損をするぞと言われ
人が悪い、口を開けと聞かされ

僕の平静は勝手にとられた

 

鋭角か、鈍角か、死角か
それとも錯角か
つかみとろうとするものはいつも
形がなくて
なのに形見みたい
哀しいことを記憶してる

それでも暗い暗い
夜を饒舌に明かして
夜だから笑ってしまう片言で
雲に便乗して暮らしてく

 

いつからか
表のほころびは目もくれず
裏地ばかりを
鍛えて縫って準備した

それもいつしかほつれて、
フォーマルじゃないね
甘えて育ってきたんだね
変な批判を浴びたとき
いつもの短気は、
ペン先のように丸くなって

僕は変に強く思った
甘えられたなら幸せだ

 

人でなしの僕は、物欲をなくし
人である僕は、哀しみを書けず
楽しかった記録としてだけ
未練の筋を書いていた

共に鳴いた自負がある
だから、甘えてみたんだろうけど

そいつはおしゃぶりのように
不慣れで罪作り
綿みたいにあっけなく溶けてった


哀しみは楽しみの影に
楽しみは日常の底に
転がっている
誰かのために

人である僕には
もう、それしかなかった