【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#73 天気雨、残弾は二発

 

陽が出ているのに、雨が降っているのか
雨が降っているのに、陽が出ているのか
タマゴが先か鶏が先かの例えに近く遠い
安産難産、雄雌と巡らせて破れないなら
まさに例えとしてのみ機能する足跡だし
ただ起点と仮り決めた親鳥の存在だって
いじめられるほうに問題が、と聞こえる
誕生や孵化は白々しくも神秘的なもので
ひよこの顔を立ててとりあえずは見守る
太陽が成長に必要だからそれも立てたい
ふわふわの産毛に赤、白、黄色

 

というわけで天気雨に逢った
軽いつぶてが二の矢、三の矢を飛ばして
どうか直線で振ってねとでも願うように
窓にへばりついた滴は細切れに分かれて
三、四の柔らかい塊となってへばりつく
ふと室内の方から煙草を吹きつけてみた
わずらわしい風に傘の生地など吹き飛ぶ
雨よけのない喫煙所は閑寂を寄せつけず
いつも通りの煙たい賑わいを残していた
水がたまるといつもの灰色が浮んで濁る

 

体を折って難を逃れたパイプ椅子を開き
嵐の行く末を待ちながら柄悪くふかすと
マッチに刺さっている残弾は二発
まずいと悪態をつきながらパチと火点け
無事に着弾してから帰りの道を思案する
冷え切ってしまった身体を毛布でくるみ
風邪のない確認と望ましい夢を模索して
理路整然万事うまくいった考えを尻目に
夜中に爆弾が投下されたような雷が降る

 

珍しく目を覚まし風の無い部屋で忘れ物
昼の約束通り生暖かい風に指を強く弾く
後味の悪い「将来への展望」ってやつを
きわめて真顔で真顔で真顔で擦ったんだ
最後の一発はやけっぱちな感じでいい音