【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#1 灰も落とせない指


愛しい人差し指第二関節を
砕けたマグカップがスライス

昼下がりの喫茶店
底の見えない漬け置き容器で

客の悪意が
鰐みたいに牙をむいた

 

最愛
そう最愛

 

身代わりとなって
熱いものを流してくれた

 

 

それからというもの、包帯生活
傷跡が俺の一番になった

 

 

 

帰りの電車では
鏡に反面を映しながら

世の中をすべて知ったような
中途地点の馬鹿が謳う

 

一方、祈るみたいな素振り
両手ですがった吊り革で

肩掛け鞄をぶらぶらさせた
人形みたいな馬鹿が乞う

 

お前の一部が俺の指
こすって叩いて潰してんだよ

 

 

感覚のないあたりまで
全部見守れとは言わない

いまこの包帯の下だって
特に痛いと知れとは言わない

だけどすべてを考えて

はじめて特別な痛み
抱えてる人を護れるんだよ

 

灰も落とせない指が
隣とそのまたお隣が
奇妙に煙草を抱えるかたちを
知らないよって言ってんだ!

 

自分の中に冷たさが
笑いで薄らぐしめやかさが
薄ら笑いを浮かべてる

要らないほど強く

大げさなほど強く

それでもきっと
残酷なまでに書くだろう
軽傷だ、形象だ、警鐘だ
せいいっぱい叫んで

すべてを繋げて
そういうことにして
曲げられない原因を
一度きりの傷に託して

 

過ぎたら護れない
なんて音で震える前触れに

灰も落とせない指
曲げきらない関節が
いつもどこかを指している

 

できなかったことや

すべきだったかもしれないこと

尽くして、それでも
信じきれないことなど
何にもないって
哀しみを少し 浮かべてる