【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#12 運命の手


写真入れに淹れた
かすかな透明の思い出を
曲にしたのは必然だろうか

冷たさに乾く弦を
一本少ない指で弾いたら
心に混ざるのは皮肉なはなし

考えるより速く紡ぐものを
運命の手と名づけるならば
その一手こそが
「決まりきっている」の
冷えきった手をかわす気がした

 

ものごとを複雑にして
わざと配列を変えるのは
矛盾を悟られないためじゃなく
話をすりかえるわけでもない

ただ話の種を
増やして蒔いているだけ
遺伝子を組みかえる試みに
食べるにしろ、生むにしろ
つなぎたい
切なる願いもあるように

 

諦めきれずとげを抜く
炙って、えぐって
痛みが欲しいからじゃない

A型特有の几帳面に
型などないと悪態をついて
汚い字で自分の名前を
何度も練習することを選んだ
それこそが運命の手