【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#70 それくらい

 

六年間の男子校生活
漫画雑誌を飾る水着の柄と
人気のパンの行方
気になるのは、それくらい

学校まで続く
単調な桜並木に似た
明るく、よどみない日々が悩みで
ポップソングしか知らないくせに
薄い眉間にしわを寄せた

 

ふと降り立つように
きっかけさえ忘れさせる成り行きで
なんやかや、彼女と出会った
眉間のしわを束の間のスリルに
戸惑いを喜ぶ、みたいな顔で

 

不意の風に小花柄のスカート
揺れるたび少し心配になる

緩い素材に思わせぶりなフリル
胸に浅知恵を浮かべる

考え直してみればあれは
プリーツってやつなのかも
今となっては分からない
とりあえず
君は鼻歌を歌っていた

 

見慣れた橋の景色
欄干を沿うシルエット
青い襟足と
ストーンズのロゴを張り付けた革鞄
覚えているのは、それくらい

話しかける術もなく
ポップをロックに持ち替えて
遠近法無視の指の銃を
宛てて気づかせようとしてた

 

なんだか真正面から贈れば
邪魔をしそうな気がして
そこには気持ちよさそうな
いっぱいの鼻歌があったから

それくらい
それくらい