【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#69 JAM

 

官能などとはおよそ無縁の心は
焦りが生む湿り気になお
次の温もりを欲した

近頃、背中の掻き傷など
もらったわけでもなく
爪噛みの、かすかな自傷癖もない

では、なぜなんだろう

鋏にはじかれて
端っこだけ残してぶらさがる爪に
強く愛着を感じるのは

 

五つの指紋を押しつけるように
自らの節を
お節介なお世話をお背中に

離さないで、と願われる逢瀬に
きれいな引き際など遠ざけた

 

行っては戻り
もう一度、違う身体の奥底へ
中身だの空だのはどこそこへ
紅に染まり
青ざめて止まり
知たり顔して昇せ
その底に、その下に、その舌に
強く流れるもの
噛みしめてでも知りたくて

 

上下を、左右を、世界を取り換えて

 

カーテンを開けて
異形の朝が来ることを
固形とも無形とも
個体とも怖くて認めなかった

それでも放っておけば
くっついてしまいそうな
眠る、重い、口の蓋
消えそうな力づくでこじあけた

それら上下は蜜のように光り
中のほうはといえば何かが
いまにもこぼれそうなほど
さらっとしていた