【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#63 損得勘定

 

子供のころ、近所の酒屋の親父がくれた
日本の、数字の、単位の、一覧表
幼馴染の、そこの息子と
競うようにして覚えたわけだけど
最後のほうはやけくそで
不可思議、無量大数
金満を気取って札を数えても
笑止の千万は意味がないというように
うすら寒く実体をぼやかした数たちは
二人の子供のしかめっ面に現れた

 

あのアーティストは歌詞がいい
世中の詩集に優ると、
親戚自慢のようにうそぶく人に
どんな詩集を読むかと聞いたら
特に指定はないと言った
紡ぐ言葉
そこに音楽はないから
見せたいという欲望もなくなって
身体を覆う、薄い氷のようなものの上を
彼らは決まって、滑っていった

表面だけを
より抵抗のないところだけを

 

人は海から生まれたというけど
その通り、甲斐のない場所に疑い深く
水にたゆたった挙句
身を落とした!と振り向くばかりで
空っぽなものには見向きもしない
殻はもうゴミになって
波がさらうものと信じてる

もう一度振り向いた空っぽの痕跡が
水と陽の混じったような余韻こそが
光る貝殻のように心を誘う
耳に当てると、音がする風だ
分からないけど
無性に続きが書きたい

 

哀しみが書いてあるからといって
損な目でみないでほしい

形がないからとあきらめないで
目を凝らして得と見るがいい

揺らす身体いっぱいに
音楽が詰まっている

縦に四つ打って
横に三つ振って
空の中で波打って
日常からは見えない箱の中の周波数

 

鼓動のように不規則に刻む音が
さあ、と呼びかけるように聞こえるだろう?

 

お望みどおりの
甲斐はないのかもしれない

あなたの時間を
潰せないかもしれない

だけど少なくとも
今までに見たことのないものだろう

宛てのない文面とは
勘が外れるほどの
途方も無くきれいなものかもしれないよ