【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#55 敗者と呼ばれ

 

痛くないよ、の
害のない程度の嘘に
ハンカチを握り締めてる

深部がいじくられて
赤い印が滲んで
塩のまざった水
聖者の教えで口をゆすぐ
傷口に差し入って
少し時間が経ってからの
あてつけのような飴を
褒美かと考えりゃ

苦々しくもあるけど
清々しく歩けそう

 

なめきるまで
ふくらんだ頬に
甘い刺客が襲って
敗者と呼ばれる道を
従おうか
自由を選ぶべきか
義務感の中で揺れている

磨かなきゃ
表も裏も
汚れを取らなきゃ
植えつける
そんな気持ち

 

視界を徐々にもうろうと
させるわけなかった
少し歯が痛いだけ
歯医者と呼ばれる場所へ
可愛い犬がいるから
寄り添いに行くのだった

言わばワンオンワン
怖くないさと吠えるだけ

そうはいっても
やっぱ痛いのはいやだなあ