【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

⑤瞬膜

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えっ、と詰まってしまうような言葉が来て
こわばった体の薄皮がむける
わずかな虚勢を実らせた
その結末がこれだ

泣きそうになって
えっと、だから、ってもがいてみようとする
誰も知らない表と裏のあいだで
瞬膜のレンズが傷ついていった

君は器用な舌で息抜いているか?
あるいはガレキの下で生き抜いているか?


志と頭が高い人の真ん中で
僕をなお求めてくれるかい?
同じ景色を数えることなく積み上げた
模細工の遠景を別物と呼べるかい?

ほら、今見えた! 流れ星みたいな嘘で
闇に見切れた白い帆が静かにきらめく

くだらないものを求めすぎてはいけないよ
でも、ずっと、
僕は求めているかもしれない

 

愚と善が点滅するランプを渡されて
明るく、ほら元気に!と声をかけられる
何も傷つくのが怖いわけじゃない
噛み砕いてしまうと苦いだけ

 

複雑にうねる波の中で
閉じかけのまぶたを閃光がかすめる
悔いるときは悔いればいい
ぐっ、と踏みとどまるすんでのところ

つぶっても探し出す君の目が
あたふたと、掴み取るんだ

 

意地と意地がぶつかる世界で
満員電車からすりぬける希望の中で
はがれそうな景色と目をつなぐもの
傷つき歪んだはずのレンズに名前をつける
眠るたびに治るはずだよね
黙ってちゃ伝わらないはずだよね

だけどどうしてか
恐る恐る目を閉じるたびに象った
ぐちゃぐちゃの景色を、僕らは傷名と呼んだ

 

―5月<瞬き>の言葉―