【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

④白い花

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渇望は桜色の花のように
訪れて狂おしく誇らしげ
わざと強風を見計らって
短く咲く、嘘みたいな真実

背の高いビルが
東京の空を切り取って
僕らはそれを
思い切り見上げた
彼女のシャッター音が
細切れに砕いていく
純粋さと悩みを
重そうに首からぶらさげて

 

そんなハンデ 抱えて
彼女が描いた
僕の指のデッサン
ファミレスで見せてくれた
指の付け根が黒いのは
怠けた痛みか

強く押し付けた影なのか

 

やめる、なんて言葉を
ゴミ箱に投げ捨てて
吸い続けていた右手の煙草
夜更け
互い想いにふけり
強いアイデア抱いた

 

書き溜めた、プラトニックな野望
朝方のサンシャイン通りにばらまいた
要らない靴が捨てられて
真新しい足音が行き交う

無知と雨のにおいふくんで
むせかえるように強く、強く

 

道端に
エアコンから漏れる熱風
横っ面をはたけば
それなりに気分も悪いけど
歩いていく
丁寧に、馬鹿正直に
既成のカレンダーを破いて

 

彼女の指が
黒鍵に乗せた指が
まるで連弾のように
僕の言葉をつまみ上げる
さっき破れたカレンダーは
春風に乗り
白い花びらになって
エアコンの風に乗っていく
何かが、繋がっていたようだ

 

笑い合って
魔法の泡のようにかたまった
意志と夢のにおいふくんで
振り返ることも強く、強く

捨てるのも
舞い上がるのも
すべては春のまぼろし

白い花びらのアーチの下を
僕らは思い切り歩いていった

 

―4月<嘘>の言葉―