【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

②少女

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暗い夜に降りだした
斜めに叩きつける雪の中で
少女は僕の心をすくい取った

滑る手元に傘が転がる
何を迷うのと訊く
目深にかぶった帽子の中で
ため息が深く鳴いていた

 

手袋を外し
柔らかい頬を挟むと
冷たい、と首をすくめた

あれ、おかしいな
ちゃんとつけていたはずなのに

 

「世の中には、
ハート型の手袋があるんだよ。
手を突っ込んだなら、

真ん中でつなげるんだ。」

 

 

なだめるように
少女に言って聞かせる
仕入れたばかりの世話事は
難しいことが多すぎる
世の中のリズムを
少しだけ和らげるばかり

人は迷い続け
やはり誰かを傷つける

 

伝えたい
都会の隅で
いや、ツンドラの中でさえ
きっとそう、望んでしまう

冷たい雪は
何を暗示して消えていく
誰かの言葉を
吸い取ったまま、ものも言わずに
手のひらからこぼれ落ちる
熱に溶ける性質を
幸せと名づけたら
この声も、報われるのか

 

 

性懲りもなく、空のピアノを弾く
少女の寝息で
指先に温もりがともった


窓の外は
部屋の明かりが届く範囲の雪景色
工事現場のパイプに
器用に雪が降り積もる

目の粗くなったマフラーを
そっと少女の首にかける
いま 届く限りまで
満たし満たされるために

 

暗い夜に降りだした
斜めに叩きつける雪の中に
まぶしさがともる小さな部屋

暗くて明るい
ため息と温かい頬
不器用な指のすべてで


言葉尽きる限りの優しさを追ってゆく

 

―2月<温もり>の言葉―