【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#66 救い主

 

右だ右だというから
レバーを右に動かした
そしたら行き過ぎだ、っていうから
0のそばを行ったり来たり

ちょうどいい感じにしろ
なんでも極端にやるんじゃねえ
そんなんじゃ就いていけねえぞ
お前は遅い、などと矢継早

ひどく楯突くこの胸を
一撃も打っては射なかった

上のほうにはなんかあるかな
首鳴らし、気分を取りかえた

 

誰かさんが転んだといえば
連れてきて、小指で繋いでおいて
また前を向いて
額を大きな幹に当てる

汚れを厭わず
追い詰められて逃げもせず
自らの存在を
その背中に押し込んで

救いましょうと
紙ふぶきをふりまいて
殴るなら血を拭け
泣くならそれもいい

そんなに勝ちが欲しいなら
勝手にせよとおっしゃった

 

空を見て溺れるのなら
つかみどころのない寓話
鳥を見て、指で追って
似た軌道でさえずって

神々しい話じゃなくて
図々しい主でもない
何も知らない子供のころに
痛みをやわらげるものは

君のお手手は痛いねえ
無償に反復する言葉だった

救い主でもなんでもいい
飯屋の握り飯でもいい
痛みを知っているのだから
固く握りしめるがいい

 

居たいんだ、言ってみるだけ
手も足も出ない高みから
恐怖に喉を震わせて