【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#46 Lost and Hound

 

その口から僕の名前が
二度と出ないなどと
考えもせずに暮らしていた
川べりを歩いて
君は草を摘んでた
癇癪もちの僕は
重い荷と苛立ちを
向こう側に乗せて
シーソーゲームをしてた

 

白いカーペットに深夜の
映画がちかちかと映って
宝石のカットみたいに
尖る八重歯の艶を想った
首の皮どころか
身体はまるごと降ってきて
脂身の少ない部分が
ぎしぎしと疼いて上下した
ベッドカバー一枚
春はまだまだ寒いはず

 

夢の中ではくしゃくしゃに
捻り潰した草が青くて
感覚もちの腕が
空中にそれを舞わせた

忘れ物は忘れたことさえ
忘れた頃に見つかって

落し物は落とした場所へ
立ち戻させるためのえさ

懐かしいと振り向けば
夜桜は靴の下に落ちてた

 

遠くに吠えて
心電図だ、と筆先を落とす
どんな色模様だと思う?
無人の向かい合わせに
訊いて照れて鼻をこする
そう
強く残る草の匂いだ