【ことば倉庫】

詩集『灰も落とせない指』更新中/ほか作品集は最下部から

#10 そうじゃないの

 

傾いた扉には光が漏れていたから
斜めに視線を落とし
ていのいい言葉を吐いた

あまりにも、眩しくて
でもなぜか、切なくて

取っ手に指をかけて
重いそれを開いた

その顔が見たかったから

 

そして言った
まるで無人の部屋に向けて
正面を見て話したら
きっと伝わるとでもいうように

好きだ、と一言

 

 

そうじゃないの

 

 

真っ直ぐのつもりで放ったら
雲を貫くような感触で
待っていたのと違う響きを
ふわふわと抱きしめるばかり

意地ややっかみを通りして
励ましや共有も受け入れた
映画の宣伝にさえ
単純さを好む今だから

光ある部屋に
ひとりでいよう

 

閉じこもるわけでもなく
散歩の終わりの場所として

柔らかい部屋で
ひとりになろう